最近、飲み屋やレストランだけでなく街のあちらこちらでiPhone を操作している老若男女を目にします。世界中で開発された安価なアプリを好みにあわせて選ぶことができるなど、私も個人的に使っていて、iPhone が単なる携帯電話ではないということは感覚的だけでなく経験的にも理解しています。iPhone が世界を変革しているかどうかはさておき、今回は技術革新または新たなビジネスモデルが産業構造や産業の境界線を変えてしまう、という事例について考えたいと思います。そして長期投資において、産業・事業を動態的に把握することの重要性についてコメントしたいと思います。
長期投資を前提とした場合、その企業が属する産業がある程度安定していることが望ま しいと考えられます。バフェット氏の投資対象を見てみると、キャンディー会社のシーズや コカコーラ、過去には髭剃りのジレット(2005 年に P&G が買収)など、長期的に安定した 産業に属している企業が中心になっています。どの産業も、産業の根底を揺るがすよう な技術変革等がおこりにくい産業であるということもできます。
産業の安定性や持続性を、投資する時点でどのように分析し、また判断すれば良いのでしょうか?
バフェット氏はこの特性を「祖父もシーズのキャンディーを舐め、自分も大好きだったし、そして孫もシーズのキャンディーには目が無い」と表現します。歴史にテストされた安定性や持続性が、長期投資においては重要だということを端的に示す表現だと思います。
しかしながら、歴史に裏打ちされているということだけでは、十分な安定性・持続性があると判断するのは難しいのではないでしょうか。なぜなら、程度の差こそあれ、どの産業・事業も常に技術革新や新しいビジネスモデルによる構造変化のダイナミズムにさらされているからです。特にIT 技術の進歩が著しい現在においては、今まで競合として想定もしていなかったような企業が全く異なった戦いをしかけてくるのです。
以下では、代表的な産業構造変革の例として、フィルム産業を考えてみましょう。
銀塩(フィルム)カメラが中心だった時代、カメラ業界のバリューチェーンにおいて、フィルム会社は川上に位置し、磐石な産業として考えられてきました。しかし、その後、デジタル化・パーソナル化が進み、フィルムカメラ→デジタルカメラ/現像所→プリンターによるパーソナル現像へ、産業が大きく様変わりしてしまいました(図表1 参照)。
以上のフィルム産業の例は、安定しているように見える産業・事業でも技術革新によりバリューチェーンが大きく変化する典型的な例です。ここまで大きく変化しなくても程度の差こそあれ、どの産業でも同様の出来事がおこる可能性をはらんでいるといえます。
だからといって、産業分析は投資に役に立たないのでしょうか?
我々はそうだとは思いません。技術革新による産業の構造変化の可能性も含めて、産業を動態的に理解することが大切なのだと考えています。実際、これらの変化は、実験室の中で一瞬の内におこる化学変化ではなく、日常生活の中でじわりじわりと起こっているものです。ですから、それなりの感受性と観察力を持っていれば、日常の常識の範囲内で気付くことができると思うのです。
つまるところ、常識的なレベルでの動態的産業分析で仮説検証できる程度の安定性や持続性を持っていることが、長期投資できる産業の必要条件だと考えています。次回はそういった産業内での「企業の強さ」「参入障壁」などについて、再びバフェット氏の考え方を引用しながら議論してみたいと思います。
以上