議決権行使について

議決権行使ガイドライン

<前文-受益者の利益に資する議決権行使>
  • 運用者とは受益者のスチュワードとして、受益者の長期的な経済的利益を追求する者であり、その運用リターンの源泉と議決権行使のやり方は整合的であるべきである。例えば、株式短期売買の手腕がリターンの源泉である運用者の場合、議決権行使に多大な時間とコストを費消することは、極端な言い方をすれば、受益者の経済的利益を阻害することになる。一方、エンゲージメントによる企業価値増大がリターンの源泉である運用者にとっては、議決権行使はエンゲージメントの有効な手段の一つとなろう。つまり、運用者は自らのリターンの源泉がどこにあるのかを明確にし、リターンの源泉と議決権行使との関係を自ら規定することがすべての出発点であると考える。
  • その上で、受益者の経済的利益を最大化するよう適切な議決権行使の考え方を明確化しなければならない。なぜなら議決権行使には相応の時間とコストが必要である反面、運用者のリソースは無限ではないからである。そしてさらに重要なことは、議決権行使の考え方を丁寧な対話を通じて、受益者、発行体企業と共有することである。企業価値に重大な影響を及ぼす議案に関する考え方を共有することによって、受益者-運用者-発行体が相互に繋がるインベストメントチェーンが首尾一貫して機能することになり、社会全体にポジティブに働きかけることになるからである。
  • いわば、当該議決権行使ガイドラインはNVICと受益者の対話、と発行体企業の対話における「共通言語」である。そして、インベストメントチェーンの中のそれぞれの当事者が、この「共通言語」を用いて「企業価値増大」について議論を行うことが個別企業の企業価値増大をもたらすばかりでなく、日本経済全体のダイナミズムを高め、社会を効率的に豊かにするものと信じている。そしてこの「共通言語」は実際の対話の中で、また社会の変化の中で、不断に見直していかねばならないことは言うまでもない。

<総論>

1. NVICの運用哲学と存在意義
  • NVICの運用リターンの源泉…NVICは投資判断にあたって、「構造的に強靭な企業®」への厳選投資・長期保有を通じて受益者の長期的な経済的利益を保全・増大する戦略を採用している。当該運用リターンの源泉は、企業の持続的な企業価値増大に基づく株価上昇と配当である。短期的な株価上昇や配当はあくまでも結果であり、リターンの根源である持続的企業価値増大を見極めることが重要だと考えている。NVICでは持続的に企業価値増大をもたらす要素として、①産業付加価値、②競争優位(参入障壁)、③長期的な潮流の3つを重視しており、これらが事業の経済性を規定していると考えている。これら3つの要素の前提として、企業が提供する財・サービスが、その顧客・社会に対して長期的な価値を提供し続けるという見通しがあることは言うまでもない。ましてや顧客・社会にとって有害な財・サービスを提供する企業は、たとえ中短期的に収益をあげることが可能であっても長期的には存在しえない。つまり、長期保有を考える上で、ESG要素は当然の前提として分析の中に取り込まれている。
  • 上記3要素について、企業沿革、財の性質、競合環境等の非財務情報、企業業績に代表される財務情報、それらの背景にあるマクロ情報を有機的に理解することによって、事業の経済性を見極め、長期保有に資するポートフォリオ企業の選択を行っているが、その際、発行体企業の経営者や従業員との対話は、対象企業が営む事業性を真に理解する上で不可欠であるとともに、発行体企業の企業価値増大という「同じ舟」に乗っているパートナーとして、持続的企業価値増大に関する情報を提供する有効な手段である。NVICは様々な業種、様々なビジネスモデルを有した企業をグローバルに調査しており、そこで得られる幅広い知見は、自らの事業分野という限定された中でより深い知見を有する企業経営者にとってなんらかの「気付き」になると考えている。つまり、NVICは、経営者と「同じ舟」に乗っているからこそ可能になる「柔らかなエンゲージメント」を目指している。
  • NVICが行う長期厳選投資のリターンの源泉は、持続的企業価値増大を切り口とした企業選択・長期資本配賦と企業との包括的な対話による「柔らかなエンゲージメント」であり、受益者の長期的な経済的利益を最優先にその源泉の陶冶につとめることこそ我々の存在意義であると認識している。
2. 議決権行使の考え方
  • 議決権行使の基本的スタンス…NVICは発行体企業と企業価値に関する包括的かつ実質的な対話を通じて、保有先企業の過去・現在の経営陣が営む事業の構造的強靭性、それによってもたらされる持続的な企業価値増大の可能性について判断を行い、確信が持てているからこそ、投資・保有を行っている。従って、議決権行使において、個別議案が企業価値を毀損することが明らかでない場合以外は、基本的に会社提案に対して賛成する立場をとる。つまり、現経営陣が提案する企業価値に関連する重要議案について反対しなければならないような企業は、そもそも保有しないし、そのような論点については、企業との包括的な対話の中で消化されるべきものであると考えている。
  • 逆に、保有期間中において、もし現経営陣が容認できないくらいに企業価値を潜在的に毀損していることが判明したとするならば、我々が影響力を行使できない程度の議決権しか持っていない場合、速やかに売却を行うことに全く迷いはない。価値を毀損していると思われる経営陣との議決権行使を通じた議論に時間とコストを費消するより、速やかに売却し、他の魅力的な投資機会を探し、別の企業との実質的な対話に運用者としてのリソースを配分することの方が、受益者の長期的利益に資するからである。売却という選択肢をも俎上に載せた上で、受益者の経済的利益を守るために最善の行動を取ることが受託者責任を全うすることであると認識している。
  • 議決権行使結果の個別開示についての考え方・・・上記の通り、企業を厳選することにリターンの源泉があることから、基本的には投資先企業の開示を行っていないが、これは受益者のリターンの稀釈化を避けるためである。従って、議決権行使にあたっても、企業価値維持・向上の観点から、個別議案を精査し、議決権行使を実施するが、原則として個別開示は行わない。個別開示を行うことは即ち投資先企業を既存の受益者以外に開示することを意味し、必然的に既存受益者の利益を稀釈化、毀損することにつながるからである。
3. 議決権行使内容
  • 議決権行使の判断基準は、企業価値の維持・向上に資するかどうかであり、これらの論点は、発行体企業が営む事業、沿革、競合環境などによって非常に個別性が高く、企業価値を左右する他の要素との関係性もあるため、単体で取り出して議論することは必ずしも正しいことではないが、一般的な考え方を整理しておくことは企業との日常的・包括的な対話の「共通言語」として重要であると考えている。
<ガバナンス(取締役会、取締役、執行体制)に関する考え方>
  • 社内取締役の資質としては、①産業・事業に対する深い理解、②その企業に対する主体性、③株主の代表であるとの自覚が必要であると考える。①、②については個人の資質、経験により個別性が高く、客観的な基準に乏しいが、社内取締役の場合はこれらの条件を満たしていることを前提としても差し支えないであろう。しかしながら、③の株主の代表との概念が希薄になりがちであることには注意を要する。これは、日本の企業風土に起因していると思われる。そもそも取締役とは株主の代表として企業の執行を「取り締る」役割を担う者であるが、日本の社内取締役の場合、基本的に社内での昇進の結果であることが多い。この問題は、適切な社外取締役の選任と、株主との経済的な利害の一致をはかることで一定程度和らげることは可能であると考える。
  • 社外取締役に関しては、上記3つの資質が必要なことは同様であるが、これらに加え、④独立性が求められる。一般論として社外取締役は社内取締役に比べて、①産業・事業に対する深い理解、②その企業に対する主体性、については劣後すると考えられるが、逆に社内取締役に希薄になりがちな、③株主の代表としての認識、④独立性に期待するところが大きい。なぜなら、そのような社外取締役の存在が、社内の論理に支配されがちな取締役会において、株主本位の議論を可能にするとともに、議論に多様性をもたらすからである。
  • どんなに長時間の対話を行ったとしても、本当に資質を備えているのかどうかをデジタルに判断することは簡単ではない。ましてや議決権行使において、経歴を主たる根拠に取締役の資質を適切に判断することはほとんど不可能といえる。現実的には、日常の包括的な対話の中で、取締役の選任プロセスが整備されているかどうか、そしてそれがどのように機能しているのか、についてヒアリングを行うことが事前チェックとしては有効であると思われる。また事後的には、選任された取締役の実績(企業業績、KPIの達成状況、取締役会でのパフォーマンス等)について、評価・判断することも有効である。事前、事後のいずれの場合も、結局は包括的な対話の中で個別に判断せざるを得ないであろう。
  • 取締役会の構成(社内・社外の構成比)については、取締役会が株主の委託をうけて経営を管理する役割であることを勘案すると、一般的には社外取締役が過半数を占めていることが理想的という考え方もあるが、現実的には産業・発行体企業ごとに個別に判断するしかない。
<資本配賦、資本効率に関する考え方>
  • 企業価値の長期的な増大を基準とした場合、株主還元をどの程度するべきかどうかは、事業の競争優位性と投資機会の有無の関数である。高い競争優位を有する事業を有している企業が、その分野における有望な投資機会があるにもかかわらず、配当を過大に行うことは長期的な企業価値増大を阻むものである。逆に競争優位性が無いにも関わらず、やみくもに設備投資を行うことは企業価値を毀損する。
  • 自社株買いも基本的には配当と同じく事業の競争優位と投資機会の有無により判断されるべきだが、それに加え、買入れ価格が重要な要素となる。即ち、フェアバリューより高い価格での自社株買いが企業価値を毀損することに留意が必要である。従って自社株買いを単純な株主還元と考えることは間違いであり、資本コストなどを含めたより深い対話が発行体との間で求められる。
  • 負債比率の増大は節税効果分だけ、企業価値を増大するものであるものの、日本の企業風土においては、そのような最適資本配分について企業価値増大の観点から議論されることは殆ど無い。最適資本構成は、発行体企業が属する業種や営む事業、そして想定される外部環境によってまちまちであるべきであり、一般的な解答はないが、発行体企業はそれぞれに論理的に説明できるようにしておくべきであり、そこからバランスシートの右側の個別の議論がなされなければならない。
  • 少数株式保有、持ち合い等のいわゆる政策保有は、その合理性に関して個別具体的に対話の中で判断されるべきではあるが、一般的には解消するべきである。多くの場合、政策保有のメリットが明確でない反面、資本効率の悪化、ガバナンスの劣化等、そのデメリットが明白だからである。解消にむけては発行体の個別事情を斟酌しながら粘り強く対話を行うことが肝要である。

以上、企業価値に大きな影響があるとされる事項について基本的な概念を記述したが、リアリティとしては、個別の発行体の沿革、価値観、ビジネスモデル、産業構造、競合環境、マクロ環境などの多岐にわたる事項を包括的に勘案した上で議決権は個別的に行使されるべきであり、その為には発行体企業のみならず周辺企業との対話、面談を通じた有機的な理解が前提となることは言うまでもない。

<各論>

上記の総論で述べたとおり、会社提案の議案に対しては賛成の立場をとるというのが当社の議決権行使に対する基本的な考え方である。これに対し、株主提案の議案に対しては、企業価値増大・毀損の観点から個別に判断するものとする。
以下に類型的に掲げる項目も、株主総会議案を含む経営上の重要なテーマに関し、投資適格企業を厳選する過程で行う分析や投資の前後を通じて行われる企業との対話でのポイントと考えているものである。
ただし、企業価値ないし既存株主の権利に対して望ましくない結果を招くおそれがある議案その他の経営上のテーマであるにもかかわらず、経営陣との対話によっても考え方に隔たりがあるまま株主総会までに相互の理解に至らなかった場合には、議案提出の背景や意図を総合的に勘案したうえで、株主総会での個別議案や役員再任議案へ否決票を投じ、またはその旨の助言することが適切な場合があると考える。

1. ガバナンス体制

(1) 株主本位の多様な意見の反映が不十分な役員構成となっていないか
・社外取締役選任・再任、等

(2) 役員の保身のための制度をとっていないか
・買収防衛策(ライツプラン、取締役会の期差選任制等)
・取締役の任期延長、解任決議要件加重
・特別決議における定足数の緩和、等

(3) 経営のチェック機能の脆弱化を招くものではないか
・監査役定員の削減
・会計監査人の責任軽減
・取締役・監査役への退職慰労金、等

2. 資本配賦・資本政策

(1) 競争優位性および投資機会を十分に踏まえていない資本政策(内部留保・配当政策)になっていないか
・剰余金処分
・自己株式取得、等

(2) 大幅な希薄化のおそれがないか
・ストック・オプション/報酬型ストックオプション
・第三者割当増資、等

(3) 資本効率を悪化させるものではないか
・株式保有、持合い

3. その他

(1) 業績不振に対する経営責任を軽視するものではないか
・取締役・監査役の再任
・取締役・監査役の報酬枠増加、退職慰労金支給、等

(2) 株主の権利を制限するおそれがないか
・剰余金処分に関する取締役会決議を認める定款変更
・株主の権利行使手続の取締役会への委任、等

以上

改正実施履歴
制  定 : 2017年7月19日
一部改正 : 2017年8月4日
一部改正 : 2017年12月15日
一部改正 : 2019年4月1日
一部改正 : 2020年4月1日

議決権行使の結果について

当社による議決権行使結果は以下のとおりです。