「オクノホソミチ -投資の視座-」は,私たちが農中信託銀行において業務していた頃から定期的に発行していました。今般,農林中金バリューインベストメンツの新設にあたり,今日的な視点も加え,再発行していきたいと考えています。5年前に書いた題材を以下に載せていますが,内容は色褪せておりません。これは長期的な視点による投資分析の普遍性の現れであると考えています。では早速,内容に入りたいと思います。
今回は,世界的に高い競争力をもつと一般的に言われている「任天堂」を例に,「理解できる企業への投資」をテーマとして考えてみたいと思います。
2000年代後半にかけて,ゲーム機の付加価値軸を変えたと言われる「Wii」や「DS」の躍進を梃子として,ピークである2009年3月期に任天堂は5,000億円を超える営業利益を計上しました。しかしながら,直近では3年連続の営業赤字となっており,任天堂の成長路線は大きな曲がり角を迎えています。
下表は,「次世代ゲームプラットフォームの変遷」をまとめたものです。
83 年に任天堂のファミリーコンピューターから始まったゲームプラットフォーム争奪戦は,概ね 5 年サイクルで新たな勝者を生んでおり,この点のみを見ても,「先行きが見通し難い産業である」との仮説を持つことができると思います。昨今のゲーム産業を取り巻く競争環境は,アップルやグーグルなどの異業種との,いわゆる「アイボールシェア」(消費者の視線)の争奪戦へと一段と厳しいステージを迎えつつあり,私達は「任天堂」をはじめとするゲーム機メーカーのビジネスは,益々,「理解し難い」ものになってきているとの印象を強めています。
以下は,バフェット氏が投資対象とする企業の4つの条件を紹介したものです。
1. 理解可能な企業であること
2. 事業の長期的見通しがよいこと
3. 正直で有能な人々によって経営されていること
4. 魅力的な値段で買えること
4 つの条件の最上位にあるのが「理解可能な企業」です。それは,ビジネスの内容が理解できない限り,ビジネスの経済性・長期的見通しの良し悪しや,経営者が優秀か否か,そして魅力的な値段で売られているか否か,の全てについて理解できないことになるためでしょう。
実際にバフェット氏は,技術革新が激しくビジネスが理解し難いハイテク企業への投資は控える一方で,ビジネスの内容が容易に理解でき,10~15 年先のビジネスの状況が予測可能な企業への投資を行ってきました。例えば,誰もが知るコカコーラや,カミソリメーカーのジレットなどがそうです。仮にネット革命を上回る更なる技術進歩が将来的にもたらされたとしても,10 年後に世界の人々がコカコーラを飲まなくなり,男性がヒゲを剃らなくなるような世の中を,一体誰が想像できるでしょうか?
事業の強さの源泉を理解できれば,そこから創出されるキャッシュフローも推定でき,最終的には企業価値も信頼性をもって算出できます。前提となっているキャッシュフローに変更がないのであれば,毎日の相場変動に一喜一憂することなく,むしろ日々の変動を収益機会に変えることもできるのです。外部環境の変化が著しい昨今の市場において,「理解できる企業」への厳選投資のほうが精神衛生上も良いと思いませんか?
次回以降は,「企業の強さ」をどのように理解するのか,という点について,またバフェット氏の考え方を引用しながら議論してみたいと思います。
以上